首都の议会 近代移行期东京の政治秩序と都市改造
東京の議会のはじまりを描く、それを通じて議会内外の人々が生きた時代の転換期をのぞきこむ、ということを、試みたのが本書です。明治維新によって、「将軍のお膝元」から「輦轂の下」の都市となった江戸―東京。同地が物理的そして政治的に変貌していくなかで、その重要な一側面をかたちづくった議会――その前身もふくめれば、(江戸町会所の後身である) 東京会議所、東京府会、そして東京市会――の起伏に富んだあゆみを、30数年間にわたってたどりました。
本書の始点と終点を見比べると、いうまでもなく東京は様変わりしています。表紙に使ったのは、日本橋から銀座方面へとのびる東京屈指の大通りを撮った明治33 (1900) 年の写真ですが、そこに映しだされた鉄道馬車、電柱、煉瓦造りの時計塔といった要素は、当然どれも30数年前には存在しませんでした。都市の物理的環境は修繕を重ねて維持されるべきものから、維持のかたわら近代化を目指して改造されるべきものに変わっていきました。
その维持?改造のプランを决め、住民に负担を课す公権力のありかたも、この间に激変しました。江戸ではたとえば町地であれば、个々の町がおのれの空间をおのれの费用と労力によって维持し、町奉行所はごく限られた人员でそれを监督してきました。しかし、このような细分化された空间维持の体制は、身分制の解体とともに崩れます。これに代わって现代人にはよりなじみ深い、都市全域を踏み込んだ形で统括する机构が整备され、东京を支える任を引き受けていく。その一翼を担ったのが、ほかならぬ议会だったわけです。
この时期の东京の议会が私にとって面白いのは、その内外で生じた様々な衝突や动揺に、日本社会が近代へと歩を进めていく时代の特质が凝缩されているからです。
本书の前半では、近世的な要素と近代的な要素の一筋縄ではいかない络みあいが、そこかしこで生じます。江戸市中の地主から徴収する七分积金を运用してきた江戸町会所を改组し、新たな土木事业の体制をつくりだそうとする试みには旧町名主が深くかかわりましたし、全国的な施策を待たずに东京会议所を公选议会化しようと奔走したのは、名うての旧藩士や旧幕臣たちでした。东京府会が开设されると、税金をおさえつつも都市改造を进めたい知识人议员は旧积金に活路を见出し、あくまで穷民の救済に用いるべきだと信じる旧町人议员と対立します。その足下の地域では、出自の多様な男性有产者が、「区」という新たな単位の住民として社会的?政治的に结集しはじめます。
これに対して本書の後半では、近世的な要素が後景にしりぞく一方で、より本格的な近代化ともいえる産業革命のインパクトが東京をのみこみ、同地の議会を揺さぶります。人口流入、土地の商品化、市内鉄道の出願競争、そして都市行財政の膨張――。近代的なインフラストラクチャーが、政府が押し付けるものから人民が必死に追い求めるものとなっていく全国的な趨勢と同期しつつ、一連の変化は加速し、都市間競争に打ち勝つには増税をいとわぬ「都市経営」待ったなしだという意識が広がりました。首都の改造事業を「速成」する必要が叫ばれ、それまでむしろ事業の過大さを批判する声を代弁してきた東京市会は、「市政不振」の元凶として糾弾されます。高まる不満と錯綜する利害関係に東京進出のチャンスを見て取ったのは、農村から勢力を広げようとする自由党 (→立憲政友会) でした。しかしながら一度は市会を支配した同党も、予想を超える動員力をそなえた住民の反発に直面していくのです。
本书は、议会が何を达成したかよりも、その内外で対立や葛藤がどのように発生?増幅したかに焦点をあわせています。本书がとらえた「东京の议会のはじまり」とはつまるところ、议会政治や地方自治をめぐる〈ゲーム〉の〈ルール〉が确立されていなかったうえ、资本主义化が进行しつつある时代にあって、首都に置かれたひとつの政治舞台が存在感と统御の困难性をふたつながら上昇させていくプロセスでした。そのプロセスが、东京の歴史に関心がある方はもちろん、今日の议会政治に対して期待?不満?不可测性を様々に感じている方の兴味も惹くことを、着者として愿っています。
(紹介文執筆者: 池田 真歩 / 2023年4月28日)
本の目次
近代化の二つのモメント──议会制の导入と产业革命
〈「民力休养」から「积极主义」への移行〉をめぐって
首都かつ大都市としての东京
先行研究
日清戦后──市政腐败の歴史的起源
日清戦前──改进党の议会、ブルジョワジーの议会
分析视角
都市改造の政治过程
〈政〉と〈商〉、〈市〉と〈区〉──议会内外の集団と団体 17
本书の构成
第一章 実业家なき议会の出発──明治初年の江戸町会所?东京会议所?东京府会
はじめに
第一节 〈富商の会议体〉をめぐる模索
1 幕末维新期の町会所
2 町会所の「会社」化构想
3 会议所の设立と「会议」専门家の招聘
第二节 连携する実业家と言论人
1 前期会议所の机构的特徴
2 渋沢栄一と福地源一郎の参入
3 会议所改革の试み
4 会议所の解散、东京商法会议所?东京府会の开设
第叁节 「政事」と「商业」の分立へ
1 福地主导?渋沢不在の深い
2 连携维持の模索──グラント歓迎企画と「町会所」建设构想
3 试金石としての府债募集
4 福地の挫折と市区取调の始动
おわりに
第二章 「民力休养」时代の都市改造──明治一〇年代─二〇年代初头の东京府会
はじめに
第一节 「改进党支配」の実势と共有金问题
1 言论人议员と旧町人议员
2 共有金の再定置――「救恤の一途」への回帰?
第二节 共有金使途の転换过程
1 前哨──明治一叁年度临时府会
2 动揺──明治一四年度临时区部会
3 転机──明治一四年度通常区部会
4 决着──明治一四年度通常区部会(続)?明治一五年度通常区部会
第叁节 始动前夜の市区改正事业
1 「渐次良好ノ方法」の时间スケール
2 元老院の道路=「华美」论
3 退けられた民间事业构想(一)──水道会社
4 退けられた民间事业构想(二)──市街鉄道
おわりに
第叁章 区民団体の政治机能──区政の始动と富裕住民
はじめに
第一节 再定义される地主の公的责务
1 地主?名主?家守──江戸の町方支配における変质と持続
2 〈地主の町〉再兴の挫折
3 区の「有志」者としての富裕住民──公立小学校の建设
第二节 府会指导者の区政参入
1 「一区ヲ以一个ノ町村ト看做シ候」
2 「有志」区民と言论人の邂逅
第叁节 公民団体の丛生
1 区政相谈会から区事业団体へ
2 「予选」と「公民」 199
おわりに
第四章 「経営」と「速成」の时代へ──明治二〇年代─叁〇年代初头の东京市会
はじめに
第一節 東京市会の開設──首都の议会の持続と変質
1 东京府区部から东京市へ
2 市区改正事业?市制特例廃止运动の始动
第二节 官民対立の昂进
1 明治二四年の転换──「道路拡张」の暂时「停止」
2 区会?公民団体の运动参加
3 府知事との衝突
第叁节 加速する资本の运动、喷出する利益、立ち惑う市会
1 市街鉄道の出愿竞争
2 変わりゆく市会外の论调
3 明治二九年の転换──「市区改正道路速成」
4 実业家不在の代偿
おわりに
第五章 政治焦点化する首都の自治──星亨进出后の东京市会
はじめに
第一节 星亨の市会入り
1 明治叁二年六月市会议员选挙
2 市街鉄道の民有へ
第二节 市会と区会?公民団体の衝突
1 市会议员に対する牵制
2 市街鉄道市有运动の展开
3 都市改造の新局面とその限界
第叁节 「不振」「腐败」「刷新」──东京市政像の成立
1 「学政统一」の提起
2 反「学政统一」运动から东京市公民会の结成へ
3 星亨死后の东京市政
おわりに
终章 明治东京の政治空间
総括──议会政治の始动、产业革命の衝撃
含意──利益?政党?地方自治
展望──东京市政から东京都政へ
付録 (関連年表/表/東京市15区地図)
あとがき
関连情报
第3回东京大学而立赏受赏 (东京大学 2022年)&苍产蝉辫;
/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
第49回/2023(令和5)年度 藤田賞 <奨励賞> (公益財団法人 後藤?安田記念東京都市研究所 2023年8月)
第45回 サントリー学芸賞〔思想?歴史部門〕 (サントリー学芸賞 2023年11月14日)
着者コラム:
【サントリー学芸賞受賞記念!】江戸が東京となり、東京に議会ができる――『首都の议会』に寄せて/池田真歩 (东京大学出版会『UP』611号 [2023年9月発行] より 2023年11月15日)
业绩検讨会:
海野大地「池田真歩氏の業績検討」[検討文献: 池田真歩『首都の议会――近代移行期东京の政治秩序と都市改造』(主に第2章?第4章?第5章)] (オンライン[日本史研究会近現代史部会] 2023年4月29日)
书评:
藤野裕子 評 書評 (『朝日新聞』 2023年7月1日)
苅部 直 (政治学者?東京大教授) 評 「地域の政治 党派と一線」 (『読売新聞』 2023年6月18日)