〈叫び〉の中世 キリスト教世界における救い?罪?霊性
ヨーロッパの中世。辉かしい文化?文明が生まれた「古代」と、その古代文化が復兴し技术や芸术が咲き夸った「ルネサンス」との间に挟まれた、一见地味な时代である。
中世の特徴として、キリスト教が世界を覆っていることが挙げられる。圣职者や修道士が时代や文化の率い手であり、文字の読み书きも独占していた。他方で、大多数を占める一般信徒たちは、声と音の世界に生きていた。そこで本书は、声の特别な一形态である〈叫び〉という切り口から、一般信徒の心性をふくめて中世ヨーロッパ世界全体を照らし出そうと试みたものである。
受肉したイエス?キリストは磔刑の际、十字架上から神に叫んでいる。それはまさに人间たる者、神に救いを求めて愿う际には〈叫び〉を発するものだ、ということを示す原风景のひとつである。
いっぽう、〈叫び〉には罪のしるしとしての意味も明白であった。圣人が治癒を施す悪魔凭きは动物のような悲鸣を発していたし、あの世で苦しむ罪人の〈叫び〉が井戸から闻こえてくるなどという话もありふれていた。
つまり〈叫び〉は救いと罪、双方と繋がるものだったのである。本书では、修道院の戒律や惯习律、修道士の伝记?着作、圣人伝?圣女伝、エクセンプラ集、异界探访谭や年代记などさまざまな史料を通して、その繋がりのありようと変容を追いかけてゆく。
第一章で〈叫び〉のおおまかな全体像を捉えた上で、第二章?第叁章ではその意味?役割に変化が见いだされる12世纪后半?13世纪以降に焦点を当てる。第二章では敬虔な女性たちに、第叁章では、一般信徒たちの参加した宗教运动に着目する。
キリスト教世界の女性のプロトタイプはイヴ、楽园追放の原因をつくった罪深い存在である。また、男性が魂や理性と结び付けられたのにたいし、女性は身体や感情と结び付けられがちであった。感情的な女性は怒ったり泣いたりして叫んでおり、女性は罪のしるしとしての〈叫び〉と结びつけられていた。
ところが、12世纪顷から変化がみられる。キリスト教が浸透し受难のイエス?キリストへの信心が深まることで、たとえば、十字架上で苦しむイエスに心とからだで共鸣しながら叫ぶ女性たちが现れる。さらには神に向かって叫ぶのみならず、神から〈叫び〉を授かる女性さえ出てくる。かような救いの〈叫び〉は、人间たちをどこへ连れてゆくのだろうか。
集団での宗教运动では、〈叫び〉はもともと大切な构成要素だ。皆で叫べば秩序を形成できる。だが、神へ、神へと外に向かって叫んでいたはずの人々が、自分の内侧にそのこだまを见いだしはじめるとしたら――。
神と人、人と人をつなぐ〈叫び〉。それをあちらからこちらへ、多様な史料をめぐりながら探り当て辿っていった本书が、ひっそりとした中世ヨーロッパの魅力を伝えるものになっていれば、と着者としては切に愿っている。
(紹介文執筆者: 後藤 里菜 / 2022年7月11日)
本の目次
第1章 救いの叫び、罪の叫び
础 日常的信心业、圣なる世界との繋がりにおける〈叫び〉
1 〈祈り〉と〈叫び〉
2 圣人崇敬、奇跡の実现と〈叫び〉
3 异教の「残滓」と〈叫び〉
まとめ
叠 悪魔と罪人の〈叫び〉
1 悪魔と悪魔凭きの〈叫び〉
2 炼狱?地狱の〈叫び〉
3 异界からの来访
まとめ
結 び
补论1 中世の音楽と〈叫び〉
第2章 「敬虔な女性たち」の叫び
――「新たな圣なる〈叫び〉」の展开
础 盛期中世以降の〈霊性〉の展开と「敬虔な女性たち」の台头
1 霊性史の枠组み
2 「敬虔な女性たち」の〈霊性〉とその展開
叠 新たな〈霊性〉と「圣なる〈叫び〉」の変容
1 救いと圣性の〈叫び〉
2 罪と赎いの〈叫び〉
3 神から与えられる〈叫び〉
結 び
补论2 感情の〈叫び〉を追って
第3章 集団的宗教运动と〈叫び〉
础 十字军运动の中の一般信徒 ――&苍产蝉辫;神の〈叫び〉、神への〈叫び〉
1 十字军と「神の思し召し」の〈叫び〉
2 少年十字军と〈叫び〉
まとめ
叠 アレルヤ运动、鞭打ち苦行运动
――〈身体〉の宗教運動と〈叫び〉のゆくえ : 13世紀から14世紀
1 アレルヤ運動 (1233年) の〈叫び〉
2 鞭打ち苦行运动と〈叫び〉の展开
3 北イタリアと北ヨーロッパの地域差をめぐって
まとめ
颁 ジェズアーティ会の运动とビアンキ运动
――〈救い〉への「過程」となる〈叫び〉の展開 : 14世紀後半
1 ジェズアーティ会の运动
2 ビアンキ运动
まとめ
結 び
补论3 絵画から见る世俗の〈叫び〉
おわりに
あとがき
註
参考文献
索 引
関连情报
第2回东京大学而立赏受赏 (东京大学 2021年)
/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
书评:
櫻井康人 評 (『図書新聞』第3533号 2022年3月5日)
书籍绍介:
[自著解説]『〈叫び〉の中世―キリスト教世界における救い?罪?霊性―』 (ALL REVIEWS 2021年12月13日)