〈焼跡〉の戦后空间论
一九四五年八月のアジア?太平洋戦争终结から、来年で七十五年が経とうとしています。そして、この期间を示す言叶として「戦后」という语が长らく使われてきました。しかし、果たしてこの「戦后」という言叶はいつまで有効なのでしょうか。よく考えれば、この七十五年の间には様々なことが起こっています。天皇制を暗黙裡に支持することで使われる元号も、「昭和」から「平成」へ、そしてまた新しい元号へと移り変わり、支配政党である自民党も変幻自在にその形を変えてきました。自然灾害も几度と重なり、経済状况もめまぐるしく変わっています。人々の暮らしに目を向ければ、「一亿総中流」という幻想は吹き飞び、格差社会が広がってこれまで当たり前とされてきた生き方が様変わりしてきました。これだけ変化のある七十五年间を、それでもなお「戦后」という一言で言い表そうとするのはなぜでしょうか。あるいは、このように闻き直すこともできるかもしれません。「戦后」という言叶で包み込むことで何を见ないようにしているのでしょうか、と。
本書は、敗戦後のアメリカによる占領下の日本における都市空間の表象を扱ったものです。特にこの敗戦直後という時代を 語る際に頻繁に登場する「焼跡」?「闇市」という空間に焦点をあてて論じました。これまで長い間「焼跡」?「闇市」は、「戦後日本」の始まりの空間として参照されてきました。しかしながらよくよく考えてみると、どちらも一九四五年八月十五日に突如として現れた空間ではありません。「焼跡」は米軍の戦略爆撃の被害の跡ですし、「闇市」は一九三九年に始まる統制経済の副産物です。この空間を見れば見るほど、それ以前からの断絶よりも、連続性の方が見えてきます。しかし、当時から現在までのメディア言説や批評言説を見渡してみると、この空間の連続性への言及は周到に回避されてきたことが分かります。むしろ、こうした場を「戦後日本」の「グラウンド?ゼロ」として読み換えるために、この連続性が見えないような偽装が長い間施されてきたと言えるでしょう。
では、その连続性は何を示してしまうのか。それは、日本が「戦后」と呼ばれる时代の间も、过去の、そして同时代の戦争に密接に繋がり続けてきたという事実です。「平和な日本」という幻想は、多くの戦争で苦しみ続ける人々を无视することから成り立っていて、七十五年たった今でもその自己陶酔的な日本像にしがみ付いているために「戦后」という言叶を使い続けているのです。したがって本书は、そうした「戦后日本」言説を突き崩すために、败戦直后の文学や映画、批评言説を対象にしながら「戦后日本」と引き続く戦争(=冷戦)との関係を考察しました。本书をお手にとっていただき、现在のメディアに溢れる空虚な「日本礼賛」の源泉をお确かめいただけると幸いです。
(紹介文執筆者: 逆井 聡人 / 2020年10月30日)
本の目次
序 章 〈焼跡〉?〈闇市〉を问い直す
1 戦略爆撃と记号としての〈焼跡〉
2 焼跡に立つ闇市
3 〈焼跡〉と〈闇市〉
4 中心―周縁构造と都市论
5 「日本ならざるもの」の生活空间
6 败戦后の日本社会を冷戦空间に置き直す
7 本书の构成
第1部 焼跡?闇市のイメージ编成
第1章 语られない焼跡――戦后日本映画批评と焼跡表象
1 戦略爆撃と焼跡
2 戦后映画と「戦争の惨祸」としての焼跡
3 戦后日本映画批评のなかの『东京五人男』
4 箱庭的ユートピアと败戦のリアリズム――小津安二郎『长屋绅士録』
5 焼跡がはらむ加害责任
6 小结
第2章 过去が凭依する场――『二十年后の东京』と『野良犬』に见る戦灾復兴
1 『二十年后の东京』と戦灾復兴计画
2 戦灾復兴计画の评価と用地接収
3 连続性を示す空间としての闇市
4 黒泽明『野良犬』での闇市の役割
5 小结
第3章 闇市とレイシズム――闇市の构造と取り缔まりにおける対象変迁
1 「闇市」という语の起源
2 闇市の构成
3 骋贬蚕による闇市の取り缔まり
4 小结――日本の外縁としての闇市
第4章 物语のなかの闇市
1 「戦后日本」と闇市表象
2 败戦直后の文学と闇市
3 大江健叁郎「万延元年のフットボール」
4 被灾と责任の记忆――野坂昭如、井上ひさし
5 记忆の起点として――浅田次郎、梁石日
6 ミステリーとしての闇市
第2部 戦后日本から冷戦期日本へ――国民的地景(ルビ:ナショナル?ランドスケープ)と异郷
第5章 田村泰次郎「肉体の门」论――「新生」の物语と残余としての身体
1 「肉体の门」の「书きえない领域」
2 田村泰次郎の「肉体」観と少女たち
3 「獣性」の身体
4 獣性?思想?肉体
5 小结
第6章 〈焼跡〉が闇市を周縁化する――石川淳「焼跡のイエス」论
1 「日本」の「戦后」
2 「新兴民族」の「今日的规定」
3 国土回復とヘテロ/ホモセクシュアルな欲望
4 〈焼跡〉という记号
5 小结――〈焼跡〉という国民的地景(ルビ:ナショナル?ランドスケープ)
第7章 「居たたまれなさ」を越えて――宫本百合子「播州平野」をめぐる「戦后」の陥穽
1 宫本百合子と戦后の文脉
2 「播州平野」评価の変迁と六全协
3 「播州平野」の朝鲜人表象
4 移动を内包するテクストとしての「播州平野」
5 小结
第8章 「异郷」の空间性――金达寿「八?一五以后」
1 「八?一五以后」発表时の「新日本文学」と金达寿评価
2 フィクションの形式と人物类型
3 改稿の问题と运动主体
4 「异郷」の内実――帰郷と同化のはざまとしての闇市
5 「异郷」にとどまることの可能性
6 小结
第9章 「おかみさんたち(ルビ:アジモニドゥル)」のたたかい――民族教育と浊酒
1 金达寿の占领期小説、「在日同胞生活史」という枠组み
2 「四斗樽の婆さん」と「前夜の章」への検閲
3 民族教育の展开と阪神教育闘争
4 「お内仪(ルビ:かみ)さん」たちの闘争
5 浊酒取り缔まりと「第叁国人」神话
6 母と息子のすれ违い
7 小结――〈异郷〉としての冷戦期日本
终 章 〈焼跡〉の抱拥から离れて
1 闇市から见る占领期日本
2 国民的地景(ルビ:ナショナル?ランドスケープ)から〈异郷〉へ
3 「冷戦期日本」の射程
初出一覧
おわりに
関连情报
成田龍一 評「書評 逆井聡人『〈焼跡〉の戦后空间论』、あるいは「戦後」の読み解き方について」(東京大学出版会『UP』 2019年2月)
若松伸哉 (愛知県立大学准教授) 評 (図書新聞 2018年11月24日)
福間良明 (立命館大学教授) 評 (東京新聞 2018年10月28日朝刊)
マイク?モラスキー (早稲田大学教授) 評 (日経新聞 2018年10月13日朝刊)
川村湊 (文芸評論家) 評 (共同通信 2018年10月5日朝刊)
叠翱翱碍ウォッチ编集部 「本当に闇市は辉いていたのか?」 (叠翱翱碍ウォッチ 2018年8月25日)
书评会:
冷戦期东アジアと〈廃墟学〉の射程 (东京外语大学 2019年3月17日)