个人的なハーモニー ノルシュテインと现代アニメーション论
本书は、ロシアのアニメーション作家ユーリー?ノルシュテインの短编作品『话の话』の分析を中心的に行うものである。さらにその过程を通じて、これまでのアニメーション研究で见过ごされがちだった国営スタジオや个人制作で作られてきた非商业的なアニメーションについての歴史的な见取り図と理论についても打ち立てる本である。
『話の話』は、ノルシュテインの個人史が散りばめられた断片的な構造ゆえに、観客にとって意味の捉えがたい作品である。本書は、観るたびに印象が変わるその「流動性」や「謎」の感覚についての考察を、現代アニメーション史における様々な事象も参照しつつ行うことで、アニメーションの鑑賞体験に対する新たな理解を提示する。そのことが、メインストリームのアニメーションに対するカウンターとしてしか価値が言语化されてこなかったこれらのオルタナティブなアニメーションの達成について、積極的に意味を見出すことにつながる。
そのアプローチによって明らかになるのは、アニメーションがリアリティの問題と深く関わりうるということだ。ノルシュテインは、アニメーションが「個人的な」リアリティを描くものだと考える。個人制作(もしくは小規模制作)で作られる作品は、万人に共有されるわけではない小さなリアリティをかたちにしてそれを観客に対して提示することで、アニメーションのその「個人的な」性質を活用する。観客はそれらの作品のビジュアルや物語構造の異質さに違和感を感じるだろうが、それは作家の個人的な世界観に根ざしたものである。つまり、自分とは違う価値観や考え方と向き合う機会ともなるのだ。このアニメーションの性質は、1990年代以降、アニメーション?ドキュメンタリーというジャンルが世界的に隆盛となり、実写では捉えることのできなかった秘められた領域 (あまりにも小さな現実や内面) を描き出す流れへとつながっていく。
また、本書は、ロシアの映画作家セルゲイ?エイゼンシュテインが自身のアニメーション論において提起した「原形質性」という概念の再検討を行うことで、デジタル時代のアニメーションの特徴を明らかにしてもいる。原形質性はこれまで、描線やフォルムがアニメーションにおいて自由に変容しうることを指すものとして理解されてきたが、エイゼンシュテインの論を実際に分析してみると、それが実際に言っているのは、アニメーションはリアリティや意味を自由に変容させうる流動的な記号であるということだ――アニメーションの変容は、ビジュアルそのもののレベルではなく、観客がその意味をつかもうとするとき、その脳内で起こる。(ノルシュテインはその特徴を指して、アニメーションは実写映画よりも <記号的な表現で構成される> 文学や演劇に近いと語っている) 『話の話』やデジタル時代のアニメーションは、イメージの根本的なバーチャル性に意識的であることによって、確固たる現実など存在しないという浮遊感のあるリアリティを現出させる。
本书は、『话の话』の谜めいた印象の持つ意味を解き明かす过程において、アニメーションを観るための新たな考え方を提示する。「个人的」で「原形质的」なアニメーションは、その谜めいた感覚によって観客のリアリティを揺さぶり、その生の意味について问い直させるのだ。
(紹介文執筆者: 土居 伸彰 / 2020年12月28日)
本の目次
『话の话』という谜めいた作品
本书のアプローチ――『话の话』を国际的な个人作家の文脉で考える
本书のねらい――「个人的な」作品をベースにアニメーションの歴史を再编する
第1章 「われわれのすべてが自分の木々をもっているのです」 ――「アニメーション映画」の想像力
「违ったふうに」世界を感じる
アニメーションの起源を探る――「アニメーション映画」の诞生と発展
「アニメーション映画」の堕落と忘却
フレームの「间」に生まれる「个人的な」时间
第2章 「すべての文明から離れた隠れ家へ…」―― 「アニメーション映画」の小さな革命
ノルシュテイン作品における取り残された场所
アニメーションの現実変革 「アニメーション映画」とディズニーのパラレル
&苍产蝉辫;「アニメーション映画」の社会性
世界の片隅に生まれる刹那の「永远」
第3章 「私は現実から書き写すのだ…」 ――『話の話』とデジタル?アニメーションの不安定な現実
「书き写す」诗人
「原形质性」再考
デジタル?ロトスコーピングと不安定な现実
流动する记忆とアイデンティティ
第4章 「メタファーは世界の扉を開け放つ」―― アニメーションの原形質的な可能性
フレームの「向こう侧」
アニメーションを「芸术」とするために
他者に宇宙を见いだす
幽霊たちの视线を感じる
幻视者の瞳
结论
註
あとがき
フィルモグラフィー
参考文献
索引
関连情报
日本アニメーション学会赏2017 受赏 (闯厂础厂日本アニメーション学会 2017年)
着者インタビュー:
土居伸彰インタビュー「ノルシュテイン作品との出会いが生んだ、新しいアニメーション史観」 (メディア芸术カレントコンテンツ 2018年5月1日)
【着者に闻く】21世纪のアニメーションがわかる本 アニメは「私たち」の时代へ (东大新闻翱狈尝滨狈贰 2017年12月6日)
ポストSNS時代を映す、新しいアニメの可能性とは?『21世紀のアニメーションがわかる本』土居伸彰氏インタビュー (THE RIVER 2017年10月12日)
土居伸彰 対谈?インタビューなど (ウェブマガジン「かみのたね」)
书籍绍介:
【座談会】マンガとアニメーションとリアリズム――『个人的なハーモニー』から考える (後編) 宮本大人×土居伸彰×三輪健太朗 (『Merca β07』 2020年11月22日)
【座談会】マンガとアニメーションとリアリズム――『个人的なハーモニー』から考える (前編) 宮本大人×土居伸彰×三輪健太朗 (『Merca β06』 2018年5月6日)
三輪健太朗 (REPRE Vol.30 2017年7月29日)
あの超人気アニメにも影响!?アニメ作家「ユーリー?ノルシュテイン」 (蚕耻颈锄碍苍辞肠办 2017年1月5日)
书评:
石岡良治 評「アニメーション表現の「向こう側」を志向する実践の書」 (『表象12』 2018年4月23日)
本田晃子 評 (『ロシア語ロシア文学研究』49巻 2017年10月15日)
キム?ジュニアン (新潟大学) 評 (『アニメーション研究』2017 第19巻第1号 2017年9月7日)
中島水緒 評 「アートの秘密を解き明かす!? 3月号新着ブックリスト」 (美術手帳 2017年3月8日)
大久保清朗 評「アニメの「原形質性」の輝き」 (『キネマ旬報』2017年2月上旬号 No.1738)
イベント:
連続ワークショップ「アニメーションのイメージとはなにか」第2回 - 2020年代のアニメーションへ向けて (早稲田大学戸山キャンパス 2020年1月12日)
片渕须直&迟颈尘别蝉;土居伸彰「アニメーションの神様?ノルシュテインと现代アニメーション」「ユーリー?ノルシュテイン《外套》をつくる」上映记念 (本屋叠&补尘辫;叠 2019年3月21日)
アニメーション表现の今を知る (明治大学リバティアカデミー 2018年1月19日)
「ユーリー?ノルシュテイン監督特集上映 ~アニメーションの神様、その美しき世界~」 - TAMA映画フォーラム実行委員会特別上映会にてゲストトーク (TAMA映画フォーラム 2017年7月22日)
佐々木敦 × 土居伸彰 アニメーション的想像力の現在: ノルシュテインから『この世界の片隅に』まで──『个人的なハーモニー』(フィルムアート社)刊行記念イベント (ゲンロンカフェ 2017年1月31日)
土居伸彰 × 石岡良治 『个人的なハーモニー ノルシュテインと现代アニメーション论』(フィルムアート社)刊行記念トークショー 「アニメーションの輪郭線を引き直す」 (ジュンク堂池袋本店 2017年1月9日)
现代アニメーション入门~アニメーションの认识をアップデートする (恵比寿补尘耻 2017年5月15日)
土居伸彰トークイベント (驰颁础惭山口情报芸术センター 2017年4月1日)