重复レジームと気候変动交渉: 米中対立から协调、そして「パリ协定」へ
気候変動問題の深刻化が地球上のすべての生物に重大な影響を及ぼすようになっている。この問題に対処するため、国際社会は1997年に「京都議定書」(The Kyoto Protocol)を、2015年には「パリ協定」(The Paris Agreement)を誕生させた。特に国連主導の10年に及ぶ交渉の末合意に至った歴史的なパリ協定については、その成立の背景にはアメリカと中国という二つの主要大国が果たした「決定的役割」(The critical roles)があり、これこそが本書における最大の関心事である。米中の「決定的役割」については政治指導者の言説や文書に基づいた緻密かつ体系的な分析が少なく、本書ではレジーム論を起点に、交渉現場等における政策決定者へのインタビュー等を通じて議論が展開されている。
国連気候変動交渉初期の米中関係は「囚人のジレンマ」(The prisons’ dilemma) の構図に近いと考えられる。両国は全世界の温室効果ガス排出量の最も多い上位二か国 (2005年、アメリカ17.9%、中国19.2%、合計37.1%) であるにもかかわらず積極的な対処に背を向け、その他にもアメリカによる京都議定書脱退や対処責任の押し付け合いなど、米中は国際的な枠組みの交渉を停滞させてきたとして国際社会から厳しく非難されていた。
しかしこの胶着状态は、多国间及び二国间交渉の立ち上げと指导者の交代によって少しずつ変化していった。最初は米中それぞれが主导して国际交渉プラットフォームを设立し、そのプラットフォーム间で竞争関係が生じていたが、この竞争関係はプラットフォーム间の相互补完的な関係の形成によって徐々に解消し、最终的にはほぼ全ての国をカバーする国连の下で一つの条约を缔结するに至った。
本书ではこの相互补完的な関係が形成される际に必要な二つの条件が示されている。一つは「同时に存在して竞合するプラットフォームに、方向性を与える概念なり考え方が関係国、特に主要大国で共有されていること」、そして二つ目は、「そのような方向性に向けて、主要大国が决定的な役割を発挥すること」である。
実际に米中は国连とは别に础笔贰颁、骋20、骋7など様々な场面で多国间または二国间交渉に临み、度重なる対话と相互理解の努力を経て、二国间で排出削减や技术革新における协力?投资に同意し、立场が大きく歩み寄ったことで、パリ协定の缔结に决定的な原动力となったことが本书で明らかにされた。
本书ではパリ协定の缔结までを一区切りとして理论的な枠组みを构筑しているが、その后の国际交渉においてもこの理论が検証に耐えうることがわかる。2017年に共和党のドナルド?トランプが大统领に就任してから状况は一変し、2017年のパリ协定离脱、2018年の米中贸易戦争を経て二国间関係は悪化の一途を辿っている。中国の姿势も消极的になり、パリ协定以上に野心的な排出目标の设定を留保する见込みである。结局世界全体の温室効果ガス排出量は2017年以降再び増加倾向に戻り、さらに停滞する国连交渉では、パリ协定缔结后2019年现在までの四年间で政治的に重要だと思われる进捗がほとんどない。「大国が果たしうる决定的役割」という本书の议论と主张は、环境や気候変动のみならず、通商、贸易、さらには外交政策の分野にも応用できることが期待される。
(紹介文執筆者: 鄭 方婷 / 2020年10月28日)
本の目次
第二章 重複レジーム間の相互補完関係の形成に関する理論的考察
第三章 コペンハーゲン会議に向けた重複関係の発展
第四章 「ポスト京都議定書」をめぐる国際交渉の発展
第五章 「パリ協定」の採択に至る経緯
第六章 米中協力関係の形成と国際合意
第七章 結論:国際制度の形成と米中関係
関连情报
国立台湾大学政治学科卒業 (学士?国際関係論)。東京大学法学政治学研究科修士課程、博士課程修了 (法学博士?学術)。日本貿易振興機構 (ジェトロ) アジア経済研究所新領域研究センター法?制度研究グループ研究員。「パリ協定-気候変動交渉の転換点」 (『アジ研ワールド?トレンド第246号、2016年』); The Strategic Partnerships on Climate Change in Asia-Pacific Context: Dynamics of Sino-U.S. Cooperation (共著、Springer社、2015年);『京都議定書後の環境外交』(三重大学出版会、2013年) 等。
书评:
高橋知子 評 (『アジア研究』65巻 2号 p.40-44 2019年4月)