近世の朝廷财政と江戸幕府
江戸時代の天皇?朝廷と幕府の関係を財政面から考察したのが本書である。天皇?朝廷と幕府の関係 (=朝幕関係) を探る朝幕関係史研究は、日本近世史の主要な研究分野のひとつであり、政治的事件や法制面、機構面など、さまざまな観点から分析がなされている。
しかし、両者の関係を規定するもっとも根幹的な要素のひとつである財政に関しては、その重要性が指摘されながらも、史料が少ないと思われてきたという問題もあり、1944年に出版された奥野高廣『皇室御経済史の研究 後篇』(中央公論社) 以来、研究があまり進展してこなかった。
そこで、本書では、関連史料をひろく探したうえで (じつは、豊富とは言えないまでも、それなりの数の史料が現存している)、江戸時代の天皇?朝廷は財政面でどのようにして成り立っていたのか、またそれに幕府はいかに関与していたのかを、おもに18世紀以降を対象に明らかにし、そこから朝幕関係の実態を考察した。以下、簡潔にではあるが、内容を紹介しよう。
まず、幕府が天皇?朝廷に対してつねに一定水準の财政保証や支援を行っていたこと、それを可能にしていた仕组み、それらを支えていた人びとのあり様などを明らかにした。また、朝廷の财政にとって、この幕府からの保証や支援がどのような意味を持っていたのかも究明した。
もちろん、こうした財政保証や支援のあり様は一定のものであったわけではなく、時期によって種々に変化したので、その変遷も追った。とくに、18世紀以降、幕府政治の中心課題が財政問題になっていき、政治が財政に規定されるようになると (藤田覚『日本近世の歴史4 田沼時代』吉川弘文館、2012年)、天皇?朝廷に対する保証や支援も、幕府財政の状況や政策につよく規定されるようになった。その一連の流れの中で、朝廷財政と幕府財政の関係がどのように変化したのかを明らかにし、幕府が朝廷を取り込む形で、朝幕の一体化が進んだことなどを指摘した。
こうした天皇?朝廷に対する保証や支援のあり様が大きく変わったのが、将軍上洛などがあった文久3年 (1863) 頃であった。よく知られているように、条約勅許問題などで、朝幕関係は文久3年以前にも劇的な変化を迎えていたが、保証や支援の基本的なあり様が大きく変化したのは、文久3年頃であった。財政面から考えた時、朝幕関係が決定的な変化を迎えたのは、この時期と言うことができる。
(紹介文執筆者: 佐藤 雄介 / 2017年7月3日)
本の目次
第滨部 近世中期の朝廷财政と朝幕関係
第一章 「御取替金」と京都所司代
第二章 享保―寛政期の朝廷财政と朝幕関係
第叁章 口向役人不正事件と勘定所
第四章 女院御所の財政運営 -- 天明六年「御賄所日記」を素材として
第滨滨部 朝廷财政と在京幕府役人
第一章 近世后期の京都代官と朝廷财政
第二章 実務役人の職務と権限 -- 寛政年間以降を中心に
第滨滨滨部 近世后期の朝廷财政と朝幕関係
第一章 寛政-文化期の朝廷财政と光格天皇
第二章 文政-天保期の朝廷财政と江戸幕府
第叁章 近世后期?幕末の朝廷财政の动向と特色
第四章 叁条実万と幕末の朝廷财政
第五章 幕末の朝廷财政と朝幕関係
終章 財政面から見た近世中期 - 後期の朝幕関係と幕末への展望