保育所2歳児クラスにおける集団での対话のあり方の変化
本書は、乳児期から幼児期への移行期にあたる保育所2歳児クラスの、子ども同士の小集団での対話の変化を描出した研究書である。日々の保育で生じる対話場面を事例として記録し、保育学?発達心理学?言语学等の知見を参照しながら、分析を行った。食事場面と散歩場面の違い、時期による違い、また、個人の対話への参加の仕方の違いなどにも着目している。
この研究は、2歳児同士の一见ちぐはぐな、けれども子どもたち自身は満足しているように见える対话の面白さに笔者が魅了されたところから始まった。この一年间に、子どもたちは保育者とのやりとりだけでなく、他児と言叶を交わし合い、言叶を使って他児とつながる楽しさを知り、自分と异なる他者を知る。その中で、言叶の用い方や対话への参加の仕方も学んでいく。そのダイナミクスを描出したいと考えた。
本書の特徴の第一は、実験的観察法ではなく、人間が生活する生の状況を重視し、そこで生活する人がどのような行動をするかに主眼を置く自然的観察法 (澤田?南、2001) を採用したことである。日常の保育現場では、長い時間をともに過ごす複数名の他児がいて、日々様々な出来事が生じている。例えば、他児と楽しさや嬉しさを共有できたという喜び、他児と衝突して、自分の思いが叶えられなかったことの悔しさ等、一日の流れの中で様々に感情を抱きながら、保育者や他児との対話を経験している。そうした文脈の複雑さ、多様さも含みこんで、保育所で過ごす2-3歳児の育ちの様相を捉えることを試みた。
特徴の第二は、従来の研究の多くが対象としてきた二者間の対話だけでなく、三者以上の小集団での対話について分析を行ったことである。三者間対話は集団 (group) のもっとも基本的な形態であり、幼児における複数名の他児と同時にかかわる能力をもっともよく見ることができる状況である。しかし、子どもを対象とする三者間の相互交渉に関する研究はほとんどなされておらず (Hay et al., 2009)、特に子ども同士の対話の非言语から言语への移行期である2歳児について研究の俎上に載せたことに意義がある。
研究の理論的枠組みには、乳幼児の言语習得について研究し、世界に大きな影響を与えたブルーナー (1993) の提唱した「フォーマット」概念や、ロシアの言语学者?思想家?文芸批評家バフチン (1988) の、言语コミュニケーションの単位としての「発話」論を参照している。バフチン (2002) によれば、「ことばを用いたあらゆる交通、ことばによる相互作用は、発話の交換という形態のうちに進む。つまり、対話 [ダイアローグ] という形態をとる」。「ダイアローグ [対話] とは、相互的な談話であって、モノローグ [独話]、つまり一者の長いことばとは異なり、二者でおこなうもの。対話の参加者たちによって交換される発話は、応答 (レプリカ) とよばれる」。本書で「対話」や「応答」という語を用いるのは、このためである。
本书を手に取った方が、2歳児同士の织りなす世界の豊かさ、瑞々しさ、奥深さを楽しんでくだされば望外の喜びである。
(紹介文執筆者: 淀川 裕美 / 2018年9月20日)
本の目次
第I部 本研究の問題と目的
第1章 2-3歳児の集団での対話の特徴を捉えるための諸視点
第2章 方法
第II部 集団での対話の成り立ち
第3章 事例数?対話への参入者数?応答連鎖数?クラス内の発話の宛先の量と方向
第4章 身体の位置?媒介物の有無?話題の特徴
第III部 集団での対話への参入と対話の維持発展
第5章 表層構造としての模倣/非模倣
第6章 “確認する“事例における宛先の広がり?話題の共有?話題への評価の共有
第7章 “伝える”事例における応答連鎖の維持?宛先の広がり?話題の展開
第滨痴部 个人の集団での対话への参加
第8章 异なる2名の対话への参加の仕方
第痴部 総合考察
第9章 総合考察
注
引用文献
谢辞